ぜんそくジャーナル
121号ジャーナル
【手記】 初めての体験 愛知県Iさん
明日はいよいよ初めて名古屋の久徳クリニックへぼく一人で行く日だ。ぜんそくの治療の一つで、心を強くするために、一人で行くのだ。
まず、準備だ。時計は父が、「電車の発車時間まで何分かよくわかるように、デジタルでない時計がいいな。」と、新しい物を買ってくれた。さいふに千円札を5枚と細かいお金を千円分用意した。保険証と診祭カード、それに先生との話を録音するカセットテープと連絡ノート、テレホンカードをナップサックに入れ、やっと準備ができた。ここまではよかった。
電車の時間を調べようと思ったら、時刻表の見方が全然わからない。定規を持って来て、吉良吉田の横にずっとあて、上の行き先と時間を見た。それでやっと名古屋に何分に着くかわかった。まだその後病院までは、地下鉄の本郷まで25分と歩いて10分かかる。その時間を計算するのがまた大変だ。そういえば、新安城に着いて乗りかえの時間やホームの番号もわからないぞ。それで、吉良吉田で乗る時間、改札口の出方、駅から病院までの道順など一つずつを全部メモ帳に書いた。とてもつかれた。1時間もかかってしまった。でも、何とか行けそうだな。だって前にも母と電車で通ったんだからな。そう自分に言いきかせた。
だけど、帰りのことを考えると、また少し不安になった。名古屋についたら、どの道を通って名鉄に行くのかな。時刻表を見たり切符を買ったりできるかな。確かいっぱい機械があったけど大丈夫かな。特急券を買う場所やホームの場所はわかるかな。考えれば考えるほど心配になってきた。でも、一人でいかなければ心が強くならない。どこへでも持っていくゲームもおいて行くぞ。もしかして夢中になって、駅を乗りすごしたら大変だ。
いい天気。雨の心配もないし、出かけるぞ。吉田の駅までおじいちゃんに送ってもらった。ナップサックに母がおにぎりを用意してくれた。電車に乗ると、何となくいつもとちがうスピードで、景色がよく見えた。電車に乗っている人の顔や服もだんだん変わってきた。
ぼくはメモの通りまちがえずに病院に着けた。
帰りも名古屋の駅まで来れた。やったあ、さあ帰るぞ、と思ったら、急に心ぞうがドキドキして、なんだか泣きたくなった。帰りの切符をかう自動販売機が十個以上あってわからない。ぼくは母の仕事先へ電話した。母の、「ばかだね。往復切符半分持っとるだら。」という声を聞くと、なみだがこぼれた。母にがまごおり行きの特急で帰ることを知らせ、吉田駅に7時にむかえに来てもらうことを約束した。ぼくは元気いっぱいになって、指定券売り場へ行った。
するとお姉さんが、「ふみ切事故で電車が走ってないよ。バス代行で前後の駅から知立までいって、電車が開通するのを待ってね。」と言った。ぼくは聞いたこともない駅だし、バス代行の意味もわからなく、だまっていた。
「わからないの。」と聞いてくれたので、「吉良吉田から初めて来たもんでわからん。」と答えたら、お姉さんが前後の駅からバス乗り場までの地図を書いてくれた。わかるかなあと思いながら地図を見ると、かんたんそうでよくわかった。みんなそうだし、行けそうな気がした。ぼくは向きをかえて特急ホームに行った。
ホームは人でいっぱいだ。順番に並んで、来た電車に乗るしかない。犬山や岐阜の方から乗ってきている人もいるので、電車の中は満員で、息が苦しく体中汗でびっしょりで気持ち悪い。手や足を動かして安定させようとしても全然動かない。前後では、電車から一気におし出され、目が回るようだった。バス代行の所へは、大人の人が走っていくし、地図の通りだったのでよくわかった。バスは次から次へと来た。並んで待つ時に会社のおじさんが、「この暑い日に何てことだ。水分補給でもせんとな。」とか、いろいろなことを言いながらビールを飲んでいた。ぼくも、自動販売機でジュースを買った。母が今日は暑そうだからジュースを2本まで買っていいと言ったうちの1本だった。ばくはつかれてきたので、こんだバスに乗らず、次のバスを待って、一番に乗ったのですわれた。ほっとしたけど、すぐにバスは立つ人でいっぱいになった。道は田舎とちがって、信号が多く、少し走ってはとまってばかりだった。道路はどこまでもまっすぐで車が多く、看板があちこちにあった。夜になるときれいかもしれない。そんなことを思っているうちに、知立に着いた。
電車が開通するのを待ったが、50分もかかってしまった。家の人のことを思い出し電話した。「みんな心配して、テレビを見たり駅へ行ったりしとるだよ。そこまで来れてよかったね。」と言ってくれた。
今日は本当にいろいろなことがあったな。でも、何となくいい気分になってきたぞ。家に帰れることがワクワクしてきた。元気に吉良吉田行きの電車にとび乗った。
「ただいま。」
家に帰って、ただでバスに乗ったことや、すごくこんでいたことを話した。ぼくはなんだかすごく大きな声ではっきりと言えた。おばあちゃんたちの目になみだが出た。ぼくもよかったな、一人でがんばれて、と思った。
つかれたから早くねようとすぐおふろに入った。そしてベッドに入ったけれど、なかなかねむれなかった。なんだかいつまでも心がカッカッとしていた。