ぜんそくジャーナル
134号ジャーナル
日本のぜんそく研究の流れ(2) 明治・大正・昭和のはじめ
日本では、明治、大正、昭和のはじめ頃まで、ぜんそくは全く分からない病気、治らない病気ということで、余り系統だった研究はありませんでした。
研究というよりも、むしろ体験に基づいて、いろいろな治療方法が行われました。
■転地療法
患者さんの中には、転地したらぜんそくが治ったという人も現われます。そんなことがあると「転地するとぜんそくは治る」と考え、転地させることが治療方法として使われたりします。
しかし転地して治る人はごく少数で、かえって悪化する人もあり、実際には実行できない人もあり、大した効果はなかったのです。
■ 煙突療法
発作がおこると、息がすえなくなる。これは空気が汚いからだと考えた人がいました。
上空のきれいな空気を地上に引いてきて、その空気を吸えば発作は楽になると考え、大きな煙突をつくり、上空の空気を地上の部屋に引き込むようにして、そこに患者を入れる治療方法も実行されました。中国地方につくられましたが、これも効果はなく、駄目だということになりました。笑い話のようですが、「ほこりのアレルギー」が問題になった頃、これと似た考え方をした学者がいました。
病院の中に大きな無塵室をつくったのです。当時、無塵室をつくるのは機械が大変で、患者の入る部屋の2倍もの機械室が必要でした。
ここに「ほこりアレルギー」の患者さんが入ったわけですが、効果が全くなく、努力は無駄におわりました。30年くらい昔の話です。
■ 熱療法
発熱すると発作が消える患者さんはそれほど珍しくありません。発作がひどくてとまらない時、発熱させれば発作が消えると考えてこころみられたのがこの療法です。今から考えると無茶な治療方法で危険なことですが、チフスワクチンを静脈注射し、40度近く発熱させるのです。
■ ビトキシン療法
蜂に刺されたら、それを機会にしてぜんそくが治った人があり、それをヒントにして、蜂の毒を集めて注射液にして治療した時代がありました。この注射液をビトキシンといいます。一時相当使われたようです。
■ 胎盤・臍帯埋没療法
ぜんそくは体のバランスが乱れていることが原因だと考え、実施されたのが、胎盤や臍帯の埋没療法です。小片を患者さんの皮下に手術して入れる方法で、若干一時的な効果のある人もいたようです。いまでも日本ではこの治療をしているお医者さんがいるかも知れません。
■ ゾルガナール療法
金をゾル状にした注射液を注射したら、ぜんそくが治ったという人があり、その人が有名人だったということで、一時日本でこの治療方法が大流行しました。
変調療法の一種です。いまもまだ、ぜんそくは分からない、治らないと考えている医者が多い時代ですから、この方法で治療している人がいるかも知れません。
■ EK療法
湿疹ができるとぜんそくが消え、湿疹が消えるとぜんそくが現われるという現象があり、昔は「湿疹が治るとぜんそくになる」と信じられていました。
この考え方にもとづいて、ぜんそくの患者さんの皮膚に軟膏をぬって、わざわざ湿疹のような発疹をつくり、ぜんそくを消そうと考えたのが、このEK療法です。他にまだ断食療法などいろいろあります。
どんな病気でも根本療法がない時代には、あれがよい、これがよいと、いろいろな薬がつくられたり、いろいろな治療方法が試みられたり、その病気を治すお寺まで現われたりするものです。思いついたものはなんでも試みてみようという時代が昭和20年代までつづきました。