ぜんそくジャーナル

 

155号ジャーナル

【症例】兄弟3人みな喘息 

 
I君は中一、二人の弟のうちJ君は小四、S君は小二、兄弟三人みな喘息でした。初
診は昭和56年、重症さからいえば中等症で、年中、毎月2~3回は発作がおこっていました。
喘息は「しつけや毎日の生活が体質を左右する病気」で、いままでのように、「体質は遺伝、遺伝だから治らない」という考え方は「古い医学の考え方」になってしまっているのです。
 
よく親たちは、「同じように育てたのに、この子だけ喘息になったのはなぜですか」といいます。これは人間の親の子育ての原則を知っていないということです。
昔、兄弟が5~6名もいる時代、統計をとってみると、長子と末っ子が圧倒的に多く喘息になっているのです。総領の甚六とか、三文甘い末っ子的な立場で育てられると喘息になりやすいということで、長子と末っ子にだけ喘息体質が遺伝するということではないのです。
 
I君兄弟のように、兄弟そろってみな喘息ということは、昔は全くといってよいほどありませんでしたが、暇でブラブラ育てられ、ほしいものはなんでも買ってもらえる、高度成長の時代になって、兄弟全部が喘息という家庭がふえてきました。
I君兄弟の家は、日本海の見える京都府の町にありました。私はこの時、京都府にも海があることを知りました。京都府は岐阜県や長野県と同様に、海のない県だと思っていました。
 
その三兄弟は約1年間、実に要領よく、親とも相談し、クリニックに通院しました。片道5時間かかるということでした。「大丈夫か」と聞きますと、「うん、大丈夫だ。朝五時におきれば間に合う。夜八時にはうちにかえれる。勉強は、あくる日におくれた分をやるからいい。」
これは、子どもがしっかりしているというより、親が賢く、要領よく、子どもをたくましい方向に指導できているということです。1年の通院で、全治のコースに上ってしまいました。
 
親の考え方はしっかりしたものでした。
「3人とも喘息にしてしまった原因がしっかり分かりました。」
「このまま3人とも大人になっても喘息ということでは困ります。親に治す責任があるし、しっかりした子にして喘息を治すか、そうしないか、計算してみると、一生喘息の場合、高校、大学、就職と、喘息の治療費のことを考えると、いま治してしまうのが一番よいことだと考えています。」
こんな親を持った子は幸いです。
喘息を治すことで、親は子育ての賢さを身につけ、子どもは心身、アレルギーともに改善し、親子お互いに幸せで、子は立派な子になることを身につけたのですから。
 

【症例】治療放棄の親 

世の中は広いもので喘息児の親といってもいろいろな親がいます。一番悲惨なのは、「しつけが喘息の原因といわれるのはいやだ。」「しつけの勉強をしなければならないのなら、喘息を治してやる気はない。」こんな親もたまにはあるのです。1万人の喘息児に1人か2人、あるいは1万5千人に1人くらいかもしれません。
「私の産んだ子だ。死んでもかまわない」 こんな親もいるのです。
子の喘息も、どうしても重症になりがちです。
 
S子ちゃんは中学1年で私のクリニックに来ました。週に1~2回は呼吸がとまりそうになり意識もモーローとしてしまうほどの発作をおこしていました。こんなにひどくなったのは小学校4年生の2学期頃からで、いままでにも六回入院しており、呼吸の止まったことも1回あったということでした。お母さんは仕事のほうが好きで、「そんなにほしいわけではないけれどS子ちゃんを産んだ」といいます。
入院して総合医学的に原因分析をして分かったことは、S子ちゃんの愛情飢餓、母へのおそれが重症化の最大の原因になっているということでした。入院して発作が軽くなっている時でも、お母さんが病院にきてS子ちゃんの病室に入ると、急に発作が現れてしまうのです。
 
そんなことを1~2ヶ月くり返しているうちに、母親は、自分がS子ちゃんの喘息を重症化している原因だということを認めざるをえなくなってしまいました。
そんなある日「私が努力してまでS子の喘息を治す気はありません。いままで通り発作がおこった時だけ治療してやります。退院させて下さい。」
いくら説得しても母親の気持ちは変わりませんでした。そしてS子ちゃんは退院しました。
S子ちゃんの近くからやはり久徳クリニックに通院している人がいました。退院後、S子ちゃんは以前と同じように発作がおこり、そのうちにお母さんは働きに行くことのできない日が多くなり、2~3日の入院も時々というくり返しであるという話をしてくれました。
 
「S子ちゃんが、呼吸が止まり、ICUに入ったけれど、意識がもどらず死んだそうです。」
久徳クリニックを退院してたしか7~8ヶ月たった頃のことです。
こんな時、医者は命が危ないと思っても、親が治療に協力してくれなければ、手も足も出せないのです。