ぜんそくジャーナル
155号ジャーナル
重和先生講演録1/ 「笑顔と会話と優しい気持ち」
ただ今ご紹介にあずかりました久徳と申します。私は、名古屋の名東区で開業しています。専門の科目は「心療内科」、「アレルギー科」、「呼吸器科」です。呼吸器の中では喘息が主です。あと、内科、小児科も診療しているという、専門性の深い診療に従事しております。
今日お話ししますのは、「笑顔と会話とやさしい気持ち」というテーマですけれども、これは、最後の方でどういう意味かお分かりになると思います。今日の主なテーマは、登校拒否の子どもさんを私たちがどう診ているかという内容です。
ここから本題ですけれども、じゃあ登校拒否の本質は何でしょうか?
今はいろいろな所でいろいろなことが言われてます。イジメがあるからいけないんだとか、学校教育が悪いんだとか。親のしつけが悪いんだとか、画一的な教育制度が悪いんだとか、いろいろ言われていますが、これらの議論は、残念ながら問題の上っ面だけしか見ていません。
覚えておいて戴きたいのは、登校拒否を「学校へ行かないこと」が問題なのだと考えてしまうと、問題の本質が分かりにくくなるということです。今日は、登校拒否の問題について、私なりの見解をお話しさせていただくつもりでいます。
医学は大きく分けて三つの医学に分かれます。
最も一般的なものは、身体医学と言います。これは、癌の治療をするとか、今、話題になっている臓器移植とかの治療をする医学です。要するに体の部品である臓器の治療をする医学です。それを身体の医学、身体医学と言います。
ところが人間は心身両面を備えていますから、体だけ診ていては治せない病気もあります。たとえば心身症もその一つです。
心理的なことが原因で、身体に症状が出る病気を心身症と言っています。これは、ストレスが体に変調をきたして、身体に症状が出るという病気なんですけれど、そう言った心身症を診察する医学もあります。この医学は心身医学と呼ばれています。心身医学を実施する科を「心療内科」と言います。
しかし、心身医学にも限界はあります。その患者さんがなぜストレスをもつようになったかというところまでは、心身医学では解明できないのです。なぜこの患者さんはストレスを持つようになったのかということは相当に大事な問題なのですが、心身医学ではそこまでは解明できないのです。
人間は生まれつき一人前に生まれてくる生き物ではありませんし、体さえたくましく成長すれば自然に性格もたくましくなる生き物でもありません。人間の性格や体質は、養育歴や養育環境の影響を強く受けます。分かりやすくいえば「氏より育ち」という言葉もあるように、「どのように育てられたのか」ということなのです。
患者さんの父親、母親は、それぞれ子どものころどのように育てられたのか?思春期・青年期をどのように成長してきたのか?そして結婚してからはどのような家庭を築いてきたのか?そして親になってからは子どもをどのように育ててきたのか?その結果、子どもはどのような個性に育ったのか?私たちはこういう考え方に立って患者さんを診ています。
そして、この考え方を、人間の性格と体質が作られる過程を考える医学という意味で「人間形成医学」と呼んでいます。とは言うものの、残念なことにこの医学はまだあまり広くは知られてはおりません。
例えば、以上の話を不登校の子にあてはめて考えてみますと、例えば朝お腹が痛くて学校に行けないとします。そうしますと、学校に行けないのはお腹が痛いからだと思って、お腹の先生に診てもらいに行きます。まず身体医学レベルの検査をする訳ですが、いろいろ調べても、お腹には異常はありませんと言われることがほとんどです。そこで、お腹が痛くて学校に行けないという訴えはあるけれども、身体医学的なお腹の病気ではないということが分かります。
(続く)